「人間椅子」(江戸川乱歩)

横溝と違い、グロテスクで醜悪な乱歩の世界

「人間椅子」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第1巻」)光文社文庫

雑誌編集の仕事に携わっている
佳子のもとに、ある原稿が届く。
そこには驚愕すべきことが
書かれてあった。
ある職人が自ら製作した
椅子の中に入りこみ、
座った人間の感触を
楽しんでいるのだという。
そしてその椅子は…。

横溝正史「蔵の中」を再読して
思いだしたのが乱歩の本作品。
編集者のもとに届いた
原稿が物語る構造は
非常によく似ています。
しかし、
「蔵の中」のような
美しさはありません。
グロテスクで
醜悪なものが感じられます。

その椅子は、はじめはあるホテルの
ロビーに設置されました。
女性が座ると
「彼女を抱きしめる
 真似をすることも出来ます。
 皮のうしろから、
 その豊な首筋に
 接吻することも出来ます。
 その外、
 どんなことをしようと、
 自由自在なのでございます。」

そのくせ男性の外国人が座っても
「私の太腿と、
 その男のガッシリした
 偉大な臀部とは、
 薄い鞣皮一枚を隔てて、
 暖味を感じる程も密接しています。
 男性的な、
 豊な薫が、
 革の隙間を通して漾って参ります。」

女性でも男性でも
それに応じたエクスタシーを感じる。
倒錯した世界、
いや単なる変態でしょう。

その椅子が競売に掛けられ、
一般家庭に譲渡されたことを
原稿が明かしてから、
俄然面白くなっていきます。
その椅子は…、
なんと桂子の家にあるのです。
「私は、
 彼女が私の上に身を投げた時には、
 出来る丈けフーワリと
 優しく受ける様に心掛けました。
 彼女が私の上で疲れた時分には、
 分らぬ程にソロソロと膝を動かして、
 彼女の身体の
 位置を換える様に致しました。
 そして、彼女が、うとうとと、
 居眠りを始める様な場合には、
 私は、極く極く幽に、
 膝をゆすって、
 揺籃の役目を
 勤めたことでございます。」

知らず知らずのうちに
自分がこんな椅子に腰掛けていたとは…。
女性なら背筋が
震え上がる思いをするはずです。
「椅子を調べて見る(?)
 どうしてどうして、
 そんな気味の悪いことが出来るものか。
 そこには仮令、
 もう人間がいなくても、
 食物その他の、
 彼に附属した汚いものが、
 まだ残されているに相違ないのだ。」

「蔵の中」同様、
最後はどんでん返しがあります。
未読の方はぜひお読み下さい。
それにしてもこのような
アブノーマルな世界を創り出す
江戸川乱歩の脳構造は
どういうものだったのか。
興味津々です。

※自筆解説を読んでびっくり。
 乱歩はこの
 「人間椅子」創作にあたって、
 横溝正史とともに
 家具店を物色していたのだとか。

(2019.2.23)

【青空文庫】
「人間椅子」(江戸川乱歩)

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